社会人になり、給料がもらえるようになると気になるのが「この給料って他の人と比べて高いの?低いの?」ということではないでしょうか。
そんな疑問に対し、大変参考になる調査があります。
毎年、厚生労働省が行っている「国民生活基礎調査」です。この調査は、22万世帯以上の世帯を対象に調査が行われ、まさにその時々の日本をお金という側面から読み取ることができる調査になっています。
実際、最新の平成28年に実施された国民生活基礎調査の結果を見てみると、まず初めに目に飛び込んでくるのが、"所得金額階級別世帯数の相対度数分布"です。
この分布図を眺めるだけでも、あなたの(世帯の)給料がどのような状況に置かれているのかをざっくりと把握することができます。
そうなんです。こうした調査の数字に気を取られるのは致し方ないわけですが、その言葉の意味をあなたはしっかりと理解できているでしょうか。
特に、こうした調査で用いられる「年収」や「所得」という言葉の違いを見誤ると、全く違ったとらえ方になってしまうため、注意が必要です。
そこで、本日は特に「所得」という言葉の意味する中身について、分かりやすくまとめてみます。
「年収」と「所得」の違い
「年収」という言葉と「所得」という言葉の意味する収入の中身は、本来異なります。
どう異なるのかというと…
「年収」の定義
「年収」という言葉が意味するものは、「源泉徴収票の支払金額」を意味します。(会社員の場合)イメージは、天丼です。
つまり、会社から支給されたお金を基本的にはすべて合わせた金額を意味します。これが年収の定義と理解しておきましょう。
一方、所得についての定義はどうなっているのでしょうか。
「所得」の定義
所得とは、その名からも想像されるように「所得税」につながっていく金額になります。
年収が公的に明確な定義がされていない民間用語であるのに対し、所得は税法という法律でその定義が明記されています。
定義は、所得の種類により若干異なるですが、基本的構造としては以下のようになっています。
つまり、この図のように
受け取った収入から、その収入を得るためにかかった費用(必要経費)を差し引いたものとして定義されます。所得の種類により、必要経費に何が含まれるのかが変わってくるわけですが、ここでは特に会社員に注目して説明することにします。
会社員の所得については、年収同様「源泉徴収票」を使って説明します。
まず、年収の定義に関しての復習ですが、年収は源泉徴収票の支払金額を見ればよかったのでした。
では、源泉徴収票ではどの部分が「所得」に当たるのでしょうか。
源泉徴収票では年収に当たる「支払金額」のすぐ右に記載されている「給与所得控除後の金額」が所得に該当する部分になっています。
ここでは年収600万円の支払金額に対し、174万円もの金額が経費として引かれています。
会社員の必要経費は「給与所得控除」と呼ばれており、個人事業者(自営業)などの必要経費の制度に代わって設けられていますが、実際に無条件でかなりの金額を必要経費として差し引いてくれるため、その威力たるや絶大なのです。
ちなみに、給与所得控除の計算方法*1は以下の通りです。
年収600万円の場合は、上の表より次のように所得が計算できます。
✓控除:600万円×20%+54万円=174万円
✓所得:600万円-控除174万円=426万円
以上が、「所得」の定義になります。
所得という言葉を扱う上での注意点
上の説明で、税法における「所得」の定義は分かっていただけたでしょうか。
では、ここで初めの夫婦の会話を思い出してみてください。
このサラリーマンの夫は"年収"が600万円あるということで、平成28年国民生活基礎調査から読み取れる平均"所得"545万8千円より上にいることを喜んでいます。
はい。ここで、奥さんのように疑問を抱いたあなたはここまでの内容をしっかり理解できています。
そうなんです。国民生活基礎調査では平均"所得"金額が545万8千円と発表しているわけですが、そこには「年収」ではなく「所得」という言葉が記載されているのです。
もう一度確認すると、税法上の「所得」とは
と、収入(年収)から必要経費(給与所得控除)を引いた金額でした。
もし国民基礎調査の所得がこの意味で所得を使っているのであれば、この夫の所得は(年収)600万円ー(給与所得控除)174万円=(所得)426万円となり、平均を下回ってしまうことになります。
では、実際どうなのかというと、
世帯員が勤め先から支払いを受けた給料・賃金・賞与の合計金額をいい、税金や社会保険料を含む。 *2
と国民生活基礎調査では「所得」の定義を行っています。つまり、国民生活基礎調査では
として定義しているのです。ここ重要なポイントですよね。
国民生活基礎調査では所得を年収と同じ意味で使っているわけですから、夫の主張である「自分の"年収"600万円は、平均"所得"545万円より高い」は、正しい主張ということになります。
このように「所得」という言葉は、税法上の意味とは別に「年収と同じ意味」で使われることもあるのです。
年収も所得もなんともややこしい言葉です。さらに、所得とは別に「課税所得」という言葉も存在しているため、こうした言葉一つとっても、税制度がいかに分かりにくいものかがうかがい知れます。
まとめ
本日は、平均年収という指標を読み取るうえでも重要な「所得」について説明してきました。
✔ 税法…源泉徴収票の給与所得控除後の金額
✔ 日常…源泉徴収票の支払金額
複数のとらえ方がある以上、年収同様に所得という言葉が何を指しているのかを相手に明確に伝えていくことが重要であることが分かりました。
会社の給与担当者に伝える場合の所得と日常会話(あまり日常で年収など話題にはしないかもしれませんが)での平均所得では使い方を誤ると正しく状況が相手に伝わらない可能性があるわけです。
以上で、「年収」と「所得」の定義や違いの説明が終わりになります。
当ブログでは、年収に関するレポートを今後も発信していくつもりです。
年収や所得など言葉の意味を取り違えないよう十分注意しながら、レポートを読んでくれる方々にも誤解を与えないように、本日のような記事も発信できればと思います。
今後もお金に関する知識を分かりやすく説明することを目指していきますので、ぜひお気軽に読者登録&Twitterフォローしていただけたら嬉しいです。