ここでは高校数学の数列で登場する重要な公式を、言葉を使わないで証明してみたいと思います。ここで証明する公式は、以下の3つです。
一番上から
- 自然数を1からnまで足した値
- 自然数の2乗(平方)を1からnまで足した値
- 自然数の3乗(立方)を1からnまで足した値
をΣ(シグマ)という記号で表したものとそれぞれの公式になります。
ちなみに、Σ(シグマ)という記号は、Excelを使ったことがある方なら見たことがあるはずです。
シグマ記号の意味は、足していくことですので一緒に頭に入れておいてください。
では、上の3つの和の公式を言葉を使わずに証明してみたいと思います。
言葉を使わない自然数和の証明
この図こそ自然数の和の公式を証明するものです。
ほぼ補足解説の必要のない図解ではありますのが、念のため解説を加えておきます。
図解の補足解説
自然数の和である1+2+…+nをボールの数で表現しています。つまり、今求めたい値は黄色のボール群が全部で何個あるのかということになります。
上の説明図では簡略化して1+2+…+6までの図になっていますが、本来は一番下の段はn個のボールが並ぶことになるわけです。
ボールを図のように階段状に並べ、その180度回転したもの(オレンジ色のボール群)を先ほどの証明図のように合体させます。
今求めたい値は黄色のボール群が全部で何個あるのかということでしたので、この長方形に並んだボールの総数であるn(n+1)個を2で割ればいいことが分かります。
これで、1つ目の自然数の和の公式
が証明されました。
続いて、2つ目の平方数の和の公式を言葉を使わず証明していきます。
言葉を使わない平方数和の証明
この図こそ平方数の和の公式の証明になります。
この図解で「あ~、なるほどね!」となる人は先ほどの自然数の和の公式もしっかりと理解できている方だと思います。
初見で理解するには少々難易度が高いと思いますので、こちらも補足説明を加えておきます。
図解の補足説明
ここでは先ほどの自然数の和と異なり、平方数の和をボールに書いた数字で表現しています。(自然数はボールの個数で表現)
つまり、今求めたい値は一番左の三角形状に並べたボール群に書かれた数字の和ということになります。
そして、その三角形状に並べたボール群を120度回転したものを隣に書きます。それが、上の図の真ん中にきている三角形です。それを、さらにもう一度120度回転したものが一番右の三角形です。
そして、これら3つの三角形の同じ位置にあるボールに書かれた数字を足すことで1つの三角形に合体します。
ここで 2n+1 と書かれた白色のボールの三角形に書かれた数字の和を考えましょう。
さて、白色のボールは全部で何個あるのでしょうか?
並び方を変えてみると、ピンとくるかもしれませんね。
そうです。自然数の和の公式が使えるわけです。自然数の和の公式を用いることで、白色ボールの三角形群に書かれた数字の和が分かります。
これで目標であった「一番左の三角形状に並べたボール群に書かれた数字の和」が分かります。
白色ボールの三角形群は元の三角形3つが合体したものでしたので、白色のボールに書かれた数字の和を3で割れば目標が達成できます。
これで2つ目の平方数の和の公式
が証明されました。
最後に3つ目の立方数の和の公式です。
言葉を使わない立方数和の証明(その1)
この図こそ立法数の和の公式の証明になります。
これかなりすごい図解ではないでしょうか。ほぼ説明は不要ですが、確認のために説明を加えておきます。
図解の補足解説
この図のように直方体の体積がそれぞれ立方公式の左辺の項を表しています。
つまり、ここで今求めたい値は直方体の体積の和になるわけです。
ここで、直方体の体積の和を求めるにあたり、それぞれの直方体を1×1×1の青色の直方体と同じ形に分解し、次の図のように敷き詰め直します。
すると、今求めたい直方体の体積の和は(自然数の和)×(自然数の和)で求めることができるというわけです。
これにより3つ目の立方数の公式
が証明できました。
「立方数=立方体」と連想できるため、個人的にこの証明方法は非常に頭に残りやすいと思っています。
立方数の和に関しては、もう1つ別の手法も紹介させていただきます。
言葉を使わない立方数和の証明(その2)
この図こそ立方数の和の公式の証明になります。
立方数の和の公式は、この図さえ頭に入れておけば、あとは一番初めに計算した自然数の和の公式を使って簡単に証明できるのです。
図解の補足解説
ここでは上にあるn×nに配列されている数を2通りの方法で計算していきます。
まず、左側の区切りでの計算から。
これで立方数和の公式の右辺が手に入りました。次の右側の区切りでの計算です。
こちらが立方和の公式の左辺になります。
これらはもともと同じ数字の配列ですから、区切り方を変えたとしても同じ数になることには違いありません。
これより3つ目の立方和の公式
が証明されました。こちらの証明もかなり斬新ですよね。
証明を理解するポイント
ここで、この証明のポイントを押さえておきましょう。
✔ 自然数和:三角形の180度回転
✔ 平方数和:三角形の120度回転
✔ 立方数和:立方体で捉える
三角形の回転移動により求めやすい状況を作りだし、そこから公式化するのがこの証明の良いところであり、本質です。
ちなみに、ガウスという天才数学者はこの方法を小学校の時に授業で発表したと言われています。
高校生の方は、ぜひとも教科書の証明と見比べてほしいのですが、教科書ではこうしたシグマの公式は、展開公式から証明へ持ちもんでいきます。私は教科書の証明を見ても、なぜこの展開公式が出てくるのかがさっぱり分かりませんでした。
ここで紹介したような言葉を用いない証明を知り、理解することは、公式の導出を理解することにつながります。こうした幾何学的な理解は無機質な数式を有機的に理解する手助けをしてくれるはずです。
さらに、大きく変わる大学入試において、AO入試などで行われる口頭試問やプレゼンにも役立つはずです。
このブログでは今後も言葉を用いない公式の証明を紹介できればと考えています。
見ること=理解すること
英語で「see」という単語を辞書で引くと、
- 見る
という意味の他に
- 物事を理解する
- 分かる
という意味が確認できます。
これは「見ること」と「理解すること」には関係性が深くあることを意味しているのではないでしょうか。
一方で、ここで紹介したような図だけでは正確な証明とは言えないという主張もあるのではないでしょうか。その主張はごもっともで、「言葉を用いない証明」は正確な証明ではありません。
しかし、「言葉を用いない証明」はProofs Without Words(PWW)としてアメリカの数学協会を中心に発展をしている分野であり、専門書も多く出版され、視覚的・直観的な理解で数学を楽しむ手法として多くの数学者から称賛されていることもまた事実です。
私個人としては、ここで紹介したような証明方法は十分数学的な意味を持ち合わせていると感じています。そんな思いから、難しい式を並べ立てられ、数学が嫌いになってしまった学生や社会人が「数学って面白いかも!?」と思える情報を当ブログで発信できればと思っています。