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給付型奨学金を「投資」と位置付ける検討チームが抱える問題点

給付型奨学金

文部科学省の給付型奨学金制度検討チームが発表した『給付型奨学金についての議論まとめ』があまりにも"ひどい"ため、記事にしてみることにしました。

この給付型奨学金制度検討チームは、「ヤンキー母校に帰る」というドラマで一躍有名人になった現文部科学省副大臣の義家弘介(よしいえ・ひろゆき)を筆頭にしたチームで、来年度(2017年度)から一部導入がスタートする返済不要の奨学金制度について制度構築していくことを目的として結成されています。

当該チームは、平成28年12月19日にこれまで行われてきた議論を「給付型奨学金制度の設計について<議論のまとめ>」として公表しました。

この内容が、お粗末過ぎることを皆さんはご存知でしょうか。

 

給付型奨学金の制度内容

ここでは特に、注目してほしい制度概要について発表資料をもとにまとめていきます。

給付型奨学金の趣旨

何かと議論を巻き起こしている"一億総活躍社会の実現"を加速するため、安倍政権肝いりの政策として、日本の教育復興への足掛かりとして実行されるのが「給付型奨学金」です。この給付型奨学金では、文字どおり高校卒業後の進学先で必要になる学費を国が給付することで、貧富による教育格差を是正することが最大にして唯一の目標となっています。

今回発表された<議論のまとめ>では、制度趣旨を

本制度により進学断念者の進学を後押しすることにより、将来的には個人所得の増加やそれに伴う税収増、さらには生産性の向上や寄付等の社会的便益をもたらす効果が期待され、未来への投資を実現する施策として実行する。

出典:給付型奨学金制度の設計について<議論のまとめ>文部科学省

と説明しています。

 
注目したいのは、趣旨に「投資」という言葉を使っていることです。

 

 

 

給付型奨学金の対象『収入編』

次年度からスタートする給付型奨学金では、主に「住民税非課税世帯」が対象になります。では、「住民税非課税世帯」とは、どういった世帯なのでしょうか。家族構成と世帯収入をまとめてみると、次のような世帯になります。

住民税非課税世帯

 

こうした住民税非課税世帯に該当し、進学(大学、短期大学、高等専門学校、専修学校専門課程)を希望する世帯を対象に、2017年度は、私立の自宅外生など約2800人から給付を先行実施し、2018年度からは対象を2万人に拡大するとしています。

正確には住民税非課税世帯の他にも、児童養護施設退所者、里親出身者および生活保護世帯も支給対象になるのですが、これらに該当する高校生は1学年16万人いると言われています。

給付型奨学金の対象『成績編』

「給付型奨学金制度の設計について<議論のまとめ>」では、給付対象者を選定する基準として、以下のような成績・資質基準を設けることを示しています。

  1. 「頑張った者が報われる」制度
  2. 学力・資質を考慮の上、対象者を選定する
  3. 在籍学校において学校推薦とする
  4. 各学校の実態等を踏まえた推薦基準を定める
  5. 各学校において定める推薦基準については、公平性・透明性を確保し、説明責任を果たすことができるようにする

こちらは私個人が読み取った給付対象者を選定する基準の重要な部分を、本文より抜粋したものになります。

また、学校の推薦枠については、次のように説明されています。

全ての高等学校等に1人を割り振った上で、残りの推薦枠を各学校から申請された奨学金貸与者数のうち非課税世帯の人数を基に配分する方式による

出典:給付型奨学金制度の設計について<議論のまとめ>文部科学省

ちなみに、日本における高等学校の設置校数は全日・定時・通信制を合わせると、5085校ほどあることが学校基本調査から読み取れます。対象人数が2万人ということを考えると、単純に対象人数を各校一律に割り振った場合で各高校で4名程度が給付を受けられる計算になります。

 
複数候補者がいる場合の選定基準は、高校に丸投げということですね。

 

 

 

給付型奨学金の給付額

給付奨学金の給付額一覧

給付額は、現在この3パターンが検討されています。

また、奨学金の給付については、

毎年度学業の状況等を確認した上で給付を確定することとし、学業成績の著しい不振等が明らかとなった場合には、給付の廃止あるいは給付した額について返還を求めることが適当

出典:給付型奨学金制度の設計について<議論のまとめ>文部科学省

としており、大学における成績次第では2年目以降給付を廃止されることもあるそうです。

 
「学業成績の著しい不振」の基準は、明確にしないんですね。

 

 

 

以上、ここまでが給付型奨学金の全体像になります。茶々を入れつつ紹介しましたが、以降、私がさらに「該制度がお粗末であると感じる理由」について紹介していきます。

 

給付型奨学金制度が「お粗末」だと感じる3つの理由

皆さんは、上記で簡単に抜粋した給付型奨学金の概要を見て、どう感じたでしょうか。私は「あまりにもお粗末」な制度と感じてしまいました。

私自身仕事の関係で大学において講義を担当したこともあれば、大学研究室と共同研究の経験もあり、日本の教育については大変興味があり、大学教育の現場もごくわずかですが、現況も分かります。

そんな日本の教育を案ずる一研究者(自分自身が教育者という認識はありません)としては、当該制度に強い憤りを感じてしまい、こんなタイトルになってしまいました。

そんな思いからここでは、私が感じた給付型奨学金制度の問題点を3つ挙げさせていただきます。 

給付額・規模がお粗末すぎる

まず、給付額と給付規模があまりにも少額すぎることが大きな問題です。給付される金額は先ほど紹介しましたが、実際に4年間の大学進学に掛かる教育費と生活費をまとめると次の金額が必要になります。

大学学費一覧

※金額は4年間の合計額であり、「平成27年度学生納付金調査」・「平成26年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額調査」(いずれも文部科学省)を千円以下四捨五入したものを引用

子供を大学に進学させるという事は、これだけのお金が必要となるわけです。ここで紹介している数値はあくまで平均値ですので、研究にお金がかかる学部や地方から東京の大学に進学させるケースではこの金額の1.5倍は覚悟しておく必要があります。

今回検討されている奨学金では、私立大学下宿生でMAX192万円という金額になりますが、年収250万円の家庭が残りの約720万円を支出できるのでしょうか。私個人の見解としては、まさに"焼け石に水"の支援金と言わざるを得ないのでは、と感じてしまいます。

また、この給付型奨学金に予定している予算が年間220億円程度という事にも「中途半端」と言わざるを得ません。

2016年に選挙のためのバラマキとして非難されつつも、実施された「年金生活者等支援臨時福祉給付金」では、3,624億円の補正予算(単年度)が組まれています。生活が苦しい年金受給者がいることは確かでしょうが、それにしても手厚さの度合いが違います。

予算額


年金を受け取っている高齢者に支払う生活資金補助と、これからの未来を背負う若者への投資がこれほどアンバランスな状態で「何が1億総活躍で、何が未来への投資」でしょうか。

大学教育の質が低レベル

さらに問題と感じることは、高額な教育費を支払って受けることができる大学教育の質にあります。

仮にこの制度により、貧困層の子供が何とか進学し、大学教育を受けられたとして、その価値が今の日本の大学にあるのでしょうか。

今回の給付型奨学金には進学先について規制がありません。難関大学に行こうが、あまり知られていない田舎の大学に行こうが、学校の推薦というフィルターさえ突破してしまえばいいわけです。学校ごとに推薦1名を割り振るわけですから、学力困難高校での進学先は地域の大学というケースも多々あると思われます。

私はいわゆるFランク大学の学生に講義をした経験を持っていますが、彼らの学力は数学でいえば因数分解ができないレベルでした。そんな学生を対象にアクティブラーニングと称して、テーマを与え、議論をさせるのが主流になっている大学教育には非常に違和感を持ってしまいます。(この話は長くなるのでこの程度で留めます)

現在民間企業が行っている給付型奨学金の募集要項を拝見すると、そのほとんどが進学する大学先が指定されています。民間企業はそのあたりかなりシビアに大学教育を分析しているはずです。アクセプトされた研究論文の質から、大学の就職状況まで見極め、投資に値する対象大学を指定しています。

高校授業の復習をする程度の大学が増えている現在の日本の大学事情を踏まえ、本当にこの制度が掲げる目標である

  • 個人所得の増加
  • 生産性の向上

 が大学卒業によって達成できるのでしょうか。(そうした大学に進学するなら専門学校で手に職を身に付ける方が価値がある?)

また、この制度を導入するにあたり、奨学生を育て上げることができなかった進学先にはペナルティーが科されるなどのシステムがあってもおかしくありません。もし途中で奨学生を廃止になるような事態になる学生が出た場合は、高校の推薦枠消滅などのペナルティーも必要なのではないでしょうか。

少なくとも進学しても上手く行かなかった学生の情報を高校・大学・行政機関で分析・検証するシステムは必須なはずですが、全く行われる気配は見えてきません。これでは、不毛な打ち上げ花火を上げているようなものです。

そうした意味から、次の視点が問題になってきます。

発生成果を検証しない

政府が行う政策の多くは、成果を判断するという視点が欠落しているものが多いと常々感じています。

同一労働同一賃金しかり、IR法案しかり、この給付型奨学金もその視点が欠落しています。理由は、成果判断が難しいということもあるでしょうが、政策失敗を露呈しないためでもあるはずです。

専門用語で「パフォーマンス・マネジメント」と言うようですが、この視点は給付型奨学金にとって必須な視点なはずです。

なぜなら、この制度の目標は「ただ単に貧困層の学生に進学するお金を給付することが目的ではなく、その先の税収増・社会的便益を目的」として掲げているからです。政府の発表した目標には、しっかりと『投資』という言葉が記載されています。

給付が目的ではなく、投資が目的な訳ですので、奨学生の将来に渡ってのパフォーマンス・マネジメントは必須業務でなければいけないのです。この点を実行せずに与えられた220億円という金額をどう分配していくかだけを構築しているように感じてしまいます。

給付型奨学金は、夢を抱ける制度であって欲しい

これからの日本の未来を考えると、日本の教育に求められる期待は大きく、同時に大幅な改革が求めれれていきます。

そうした中で、16万人以上いるといわれる低年収家庭における高校生のうち2万人に、"焼け石に水"程度の奨学金を給付することにどれほどの改革力が備わっているのでしょうか。

せめて、給付対象となった学生が、大きな夢を描ける制度にしてもらいたいものです。同時に、しっかりとした学生の選定ができた高校や学生を育て上げた大学への報酬もあってしかるべきなはずです。

給付型奨学金に頼るしかない学生にとって夢を描ける制度を構築してこそ、1億総活躍のはじめの一歩「若者総活躍」の幕開けではないでしょうか。

給付型奨学金を「補助金」という考え方から「投資」という役割へ昇華させていくのならば、あまりにも欠けている視点が多すぎているのではないでしょうか。