読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

RepoLog│レポログ

研究職サラリーマンが日々感じたことをレポートするブログです。

カジノ反対派は理論武装せよ!ギャンブル依存測定法SOGSを用いた調査の真実

生活レポート

ギャンブル依存

カジノを含む統合型リゾート(IR)を解禁する法案である通称「IR推進法案」が本日2016年12月15日に衆議院本会議で可決され、成立した。

 

この法案については、「ギャンブル」という性質上、非常にデリケートなテーマであるため、法案を可決させた側の与党内においても未だに賛否が分かれる状態にある。

ここで、私がこの記事で訴えたいことは、IR法案は「経済効果が見込めるから東京オリンピックを控えた今こそ実現するべきだ」とか、「ギャンブル対策が不十分だから絶対許せん」という賛否を訴えるものでは決してない。

この記事で訴えたいことは、反対派の主張の一つである「日本人のギャンブル依存率は他国に比べて高い状態にあり、日本にカジノができることでギャンブル依存者が増加する」という主張根拠にあたる調査の妥当性についてである。

カジノ反対派の意見

様々な舞台で展開されるカジノ法案への反対意見をざっと見てみると、「日本人のギャンブル依存率の高さ」について触れている意見が目立つ。

これは厚生労働省研究班が実施した調査を根拠にした意見であるわけだが、まずはその調査結果をざっくりまとめてみる。

「日本のギャンブル依存率は他国の5倍以上」とする調査

取り上げられている調査は、2013年に厚生労働省研究班(研究代表者=樋口進・久里浜医療センター院長)が全国4000人の成人を対象に実施した面接調査についてである。

この面接調査の結果は、

国際的に使われる指標で「病的ギャンブラー」(依存症)に当たる人が男性の8.7%。女性の1.8%だった。海外の同様の調査では、

  • 米国(2002年)1.58%
  • 香港(2001年)1.8%
  • 韓国(2006年)0.8%

などで、日本は際立って高い。

引用:朝日新聞2014年8月21日より

と、厚生労働省研究班の調査報告とともに報じられ、カジノ法案を反対する人々の格好の反対論拠の材料となっていく。

ちなみに、大和総研によると国別のギャンブル依存症(病的賭博)患者の国別割合は、次のようにまとめられている。

ギャンブル依存

確かにこの調査結果を見ると、カジノのあるアメリカ、フランス、韓国におけるギャンブル依存率が2%以下であるのに対し、我が国日本はカジノがないにも関わらずギャンブル依存率が突出して高い割合になっていることに驚く。

そして、この調査結果をもとに「この状態で、さらにカジノができたらどうなってしまうか。」「カジノを作る前に、まずはこのギャンブル患者率を減らすことが先決だ。」という意見が出てくることは、至極当然の議論である。

しかし、この調査は本当に信頼に足る調査なのだろうか…

調査方法と内容を検討してみよう

厚生労働省研究班が行ったこの調査報告をもとに、IR推進法案への反対意見を展開されている方は、この調査の妥当性について検証は実施したのだろうか。

こうした調査を根拠とする場合、適正な調査であったかどうかの検証は重要である。

というのも、メディアによってはこの調査結果を受け、

日本人の成人は、10人に1人がギャンブル依存症である


と、かなりショッキングなフレーズを使っているわけだが、私個人の感覚としては、「え?そんなにギャンブル依存者いるの?」である。

こうした私個人の感覚とのズレも手伝い、この調査の手法について調べてみることとした。

ギャンブル依存調査方法の真実

この調査については、厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEMで概要を確認することができる。

それによると、この調査はSOGSと呼ばれるギャンブル依存を測定する方法で行われていることが分かる。

SOGSを日本語修正した質問項目は、次のようになっている。

  1.  ギャンブルで負けた分を取り返そうとして、同じギャンブルをしたことがどれくらいありましたか?
  2. 本当は負けたのに勝ったと吹聴したことはありましたか?
  3. ギャンブルに関して問題を感じたことがありますか?
  4. 最初考えた以上にギャンブルにのめり込んだことはありますか?
  5. あなたのギャンブルについて、まわりの人々に非難されたことはありますか?
  6. 自分のギャンブルのやり方やギャンブルによって生じたことについて罪悪感を感じたことがありますか?
  7. ギャンブルを止めたいのだが、止められないと感じたことがありますか?
  8. 今までにクジの券などのギャンブルの証拠を妻や子どもなど、まわりの大事な人に隠したことがありますか?
  9. 同居している人と、あなたのギャンブルをめぐって金銭に関係する口論が起こったことがありますか?
  10. 今までに人からお金を借りて、ギャンブルのために返せなくなったことがありますか?
  11. 今までにギャンブルのせいで仕事(や学校)の時間を犠牲にしたことがありますか?
  12. 今までにギャンブルするためやギャンブルの借金のために人からお金を借りたことのある人にお聞きします。どこで、誰から借りましたか?

引用:ギャンブル依存症チェック| 大石クリニック

この質問で5つ以上ネガティブな回答が当てはまる方は、病的なギャンブル依存者と認定されるのがSOGSという調査方法である。

ちなみに、私は学生時代に「麻雀」にはまった過去があるのだが、そのことを思い返してみると、1.2.4.5.6.11.の6つの項目が該当し、私は病的なギャンブル依存者と認定されてしまう。現在は、ギャンブルとは全く無縁である自分自身がギャンブル依存者と認定される可能性があるわけだ。

さて、私の過去のギャンブル癖はさておき、皆さんはこのSOGSの質問項目を見てどのような感想を持たれただろうか。私は、この調査について検証してみると次のような疑問が湧いてきた。

疑問① 和訳によるニュアンス

厚生労働省の研究班がこの調査を行うときにSOGSを用いたことは判明したが、どういった質問文を被験者に投げかけたかまでは明らかになっていない。

このSOGSの英語版をみてみると、和訳方法により微妙なニュアンスが変わってくることが分かる。

例えば、質問項目1.の英文は、次の通りである。

When you gamble, how often do you go back another day to win back money you lost?

引用:South Oaks Gambling Screen

しかし、先ほど紹介した大石クリニックの質問項目を見ると、"go back another day"の部分は訳されていない。

ギャンブル(私のイメージは麻雀)で負けた場合、「くそ~!勝ってやる」とその場で負け分を取り返そうと熱くなることと、その負けを家に帰ってからも「悔しくて寝れないぜぇ」と復讐心に燃え、数日後に再び同じ場所で(メンツと)勝負することには似て非なるものを感じてしまう。

このように各国それぞれで行われたこのSOGSの調査がどういったニュアンスで行われたかの検証は必要であるように感じる。

また、この質問だとどこまで過去に遡り回答するかが判断できないことも問題である。私のように、大学生時代時間を持て余し、麻雀やパチンコに精を出した方は決して少なくはないはずだ。ギャンブルを行っている期間が、依存度と結びついていない調査に問題点はないのだろうか。

疑問② 専門家が行っていない

次の疑問として浮かび上がってきたことは、このギャンブル依存調査がアルコール依存の調査を主目的として行われる中で副次的に発生している点である。

言ってみれば、「アルコール依存の調査の"ついでに"ギャンブルについても聞いてみたらより深刻な問題が発覚しちゃった」という感じなのである。

というのも、このギャンブル依存調査の調査報告がなされている報告書のタイトルは、「WHO戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合研究」とされており、調査メンバーの研究経歴を見る限り、ギャンブル依存の専門家というよりもアルコール依存の専門家であると分かる。

つまり、疑問①で指摘したSOGSの質問項目について、専門的な立場から質問内容を検証していたかが疑わしいのである。

疑問③ 異なる認定過程

IR推進法案の反対意見の中に「ギャンブル依存度は、他の依存度に比べて高いから危険である」という主張がある。

これについても非常に疑問を感じてします。

アルコール依存・ニコチン依存・薬物依存・買い物依存・他人依存など「○○依存症」と名が付く病名を我々はいくつか知っている。この中でもギャンブル依存は、特に日本人に多く、他の国の状況と比べても悪いというのである。

しかし、それぞれの依存症にはそれぞれ独自の依存判別法があり、その線引きは様々である。

例えば、スマホ(ネット)依存かどうかについての判定法をSOGSの質問項目になぞらえて作成してみると、次のようになる。

  1. スマホの使用について、問題を感じたことがありますか?
  2. スマホ契約時の想定以上にスマホを使用していますか?
  3. あなたのスマホの使用方法について、誰かに避難されたことはありますか?
  4. 自分のスマホの使い方に罪悪感を感じたことはありますか?
  5. スマホを止めたいのだが、止められないと感じたことはありますか?
  6. (授業中・仕事中に)スマホをこっそり使ったことはありますか?
  7. 一緒に暮らしている人とスマホの使い方をめぐって口論が起こったことがありますか?
  8. 今までにスマホのせいで仕事や学校の時間を犠牲にしたことはありますか?

 
SOGSに沿ったスマホ依存度チェックを行うのであれば、少なくともネットを経由して、この記事を見ているあなたはスマホの病的依存者に該当しているのではないだろうか。

ちなみに日本のスマホ依存率は、総務省|平成26年版 情報通信白書|ネット依存傾向の国際比較によると、わずか8%しかない。

こちらもギャンブル依存割合同様、私の感覚とは大きくズレがある。

繰り返しになるが、依存者と認定する基準がそれぞれの分野ごとでことなり、その認定ハードルの高さが統一されていない依存状態を比較し、「アルコール依存症に比べてギャンブル依存症は深刻だ」などと考えること自体とてもナンセンスなことだと分かって欲しい。

IR推進法案における最大の問題点

カジノに対する反対意見として

  • 「ギャンブル依存率が高い日本でカジノなんてあり得ない」
  • 「他の依存症と比べて、ギャンブル依存症は深刻」

という2点について、その根拠がいかに脆弱かを紹介してきた。だからといって、私はIR推進法案に賛成というわけでは決してない。

むしろ賛成派が展開するカジノによる「外貨獲得」・「経済復興」という意見についても根拠に乏しいと感じている。

ギャンブル依存は、重大な社会問題であるし、その対策は必須である。ただ、それを依存率の高さや他の依存症と比較して指摘してしまうと論点がズレてしまう。

一番の問題は、私のような素人でも少し調べただけで根拠性に欠けると感じてしまう意見の上に議論されているカジノ法案があっという間に成立してしまったことではないだろうか。